面白い小説の書き方

面白い小説の書き方について

小説家になろうの異世界転移は進化している

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異世界転位・転生はこの数年で緩やかに、しかし確実に変わってきていると私は感じている。

小説家になろうは、バカにされることが多々ある。
いわく幼稚、現実感(リアリティ)がない、文章が下手。

正直に言ってしまうと、こられのコメントは頷く点もある一方、非常に腹立たしい。

 

前回の更新で、私は文章力の高い作品も数多くあることを紹介しました。

 

 

biji.hatenablog.com

 

しかし、バカにされがちな異世界転移・転生のシステムが、実は非常に優れたシステムであることに知っている人は多くないのではないだろうか。

これだけあのテンプレート、システムが流行したのは、そうなる必然性があってのものだ。

 

全体的な印象で語る否定的な意見について、ここに否定する材料を列挙のも良いのだけど(それに十分なネタはある)、ここでは小説家になろう全体として有名になった異世界転移・転生がいかに考えられ、また進歩してきているかを紹介します。

そして、単純に表面だけを見ている方が、その「仕組み」という深い点で物語を見れるようになってもらえたら、嬉しい。

 

何気なく読んでいた(あるいはアニメなどで見た)異世界転移・転生は今、どうなっているのだろうか?

1.これまでのテンプレートの有用性と廃り

まず、大元となったテンプレートの流れを確認しておきます。

  1. 現実社会にて主人公が何らかの死を迎える
  2. 異世界に行く前に神様に出会い、死ぬ予定のない手違いであったり、あるいは神の目的の下、チート能力をもらって異世界に転移する

という流れがおおよそのお約束でした。

 神様が非常に低姿勢だったり、あるいは幼女だったりとバリエーションは豊かだが、大筋はこのようなもの、という前提条件で考えて欲しい。

 この流れを揶揄して、一部ではトラック転生もの、などと言われることもあった。

事故死の原因がトラックによるものが大半を占めたためだ。

 

 当時の流れでいうと、この異世界転移のテンプレートは非常に秀逸であったと思う。

 というのも、プロローグの目的には大きく2つある。

  • 読者を一気に引き込む衝撃的な展開や、魅力的な書き出し文
  • 作品の今後のテーマの提示

テンプレートでは、この両方が満たされている。

 

 登場してきたばかりの主人公がいきなり死ぬ、という大胆な展開によって(当時では)既存作との違いを打ち出した。

 神様のやりとりによって、主人公が優遇される理由が提示される(その理由が考えられた、共感しやすいかどうかは別にして)。

 そして、この物語は主人公が強く、異世界で活躍する作品ですよとテーマが提示される。

小説家になろうの読者の多くは、強いことに明確な統合性を求めていないので、神様が力を授ける理由も、多少問題があっても許容されてきた。

 

 しかも、異世界転移・転生は、主人公が日本人であるため、現代人が持つ化学や知識、あるいは物を平気で登場させることができる。

 そして、異世界人にとってはあたりまえの世界の仕組みを、分かりやすく、共感をもって説明することもできた。

 

 これらの要素を満たしていたからこそ、このテンプレートは爆発的に流行り、踏襲されたのだ。

 

 だけど、流行すれば目新しさはなくなり、陳腐になる。

 私もそうだった。

 

 同じような展開に読者はうんざりして、またこのパターンかよ、と溜息を吐く。
 ある読者は捻りがないとバックし、ある読者は読み飛ばしてしまうかもしれない。

 

 小説家になろうの作者は、多くの場合、同時に読者でもある。
 そこで、次の工夫が必要になってきた。

2.いきなり死なない、神様が出てこない。小説家になろう異世界転移・転生の移り変わり

 

 近頃では主人公の能力が高い理由に、神様とのやりとりを求めなくなってきている。

 元よりその傾向はあった。
 たとえば累計ランキング1位の『無職転生』は、幼少期に魔力の伸びが大きく、赤ん坊の頃から成人としての意識があり、魔力量の増える仕組みについて考察を行ったことが、莫大な魔力を得るに至った理由になっている。


 拙作の紹介で悪いが、『青雲を駆ける』はそもそも地球で一定の技量を持っていた職人が、その技術を持っていない文明社会で活躍する話だ。
 もちろんこの設定は、似たような異世界転移が受けると分かったうえで、しかし別方向からアプローチをかけた。

 

 こちらは小説家になろうではないが、『幼女戦記』では、魔力量が過剰に優れているわけではないし、そもそも存在Xとの関係は良好とは言えない。

 とはいえ、これらは考えられた別アプローチだ。

 全く同じ流れを踏襲していた作家たちは、もうちょっと手抜きをする。
 つまり、異世界転移・転生において神様とのやり取りがなくても、チート能力が得られることは共通認識になってるんだから、理由も省いて良いんじゃない? という思考だ。

 そして、こうした序盤いきなり異世界でスタートしたりする作品が非常に増えた。

 

3.ランキングシステム変更による転換期


 さて、こうして共通認識のもとに新しい異世界転移がスタートし始めたが、小説家になろうで大きな動きが起こった。
 これまでと違い、異世界転移・転生のランキングを別に分けるというものだ。
 これは日間ランキングがいわゆる異世界もので席巻されたことから、公式が新陳代謝を求めた物だと考えられる。

 日間ランキングは多くの読者が目を通し、ポイントを得て書籍化するには一番重要そうな場所だ。
 そこで作者はどう考えたか。

 

 もう異世界転移・転生じゃなくて良いんじゃ? と考えた作家もいるし、異世界から異世界に転移・転生することで、抜け道を考えた作家もいる。

 方法は様々だが、確実に異世界転移・転生物の作品数は減った。

 

4.そしてまた異世界転移・転生は舞い戻る?

 ところが、近頃再び異世界転移・転生に熱い視線が向き始めている。

 これは小説家になろうの書籍化作品と、出版市場との変化の速度差が影響しているのではないだろうか、と推察される。

 小説家になろうラノベ市場を確実に変えた。

 だが、小説家になろうの変化は、市場の変化に比べるとかなり早い。

 市場の変化が一歩進む間に、なろうの流行は4歩も5歩も進んでいる。

 そうすると、小説家になろうで受けた作品が、書籍化作業を終えて出版された時点になっても、まだ市場の流行のはるか先に行ってることになる。

 

 一度書籍化した作家にとって、書籍化することがゴールではない。

 次のステップとして、本が売れること、続けて出版できることがゴールになる。

 書籍化ブームがきて、出版経験を持つ作家が増えたため、これらの作者の一部は、すでに流行の最先端を求めるのではなく、人気を得つつ市場で売れる異世界転移・転生を書くことが多くなってくるのではないだろうか。