面白い小説の書き方

面白い小説の書き方について

鍛冶について調べたい時に参考になる資料を紹介しておく

小説の題材として、鍛冶師が登場するケースは少なくありません。

鍛冶師は道具の王様、職人の王様とも呼ばれ、あらゆる職人が「使う道具」を作ることが多いから。

つまり、人が生活を営む以上、直接的に、間接的に鍛冶師は関わってくるためです。

 

ところが鍛冶について調べようと思うと、適切で分かりやすい資料がなかなか出てこない

私は自著『青雲を駆ける』という本で、主人公を鍛冶師として起用したため、資料探しには最初ずいぶんと苦労した。

 

どのような本を読んでいけば良いのか、同じ道を歩む新人の方々にぜひ道しるべを残しておきたい、という思いで、この記事を書いています。

少しでも参考になれば幸いです。

 

1.鍛冶屋の教え 横山祐弘職人ばなし

最初に読むのにこれほど良い本はない。

一人の鍛冶師(野鍛冶)に話を聞く形式で、ながらく文庫本が絶版になっていたが、このたび電子書籍化した。とてもめでたい。

話し言葉を用いているため、とても読みやすい。

また感覚的な部分を多く知れたり、当時の風俗や習慣についても知ることができるので、学術的な意味合いよりも、生きた文章につなげやすい利点がある。

ただ、一人の鍛冶師にだけ聞いているので、情報が偏りやすい、という難点がある。

そこで次に同じ作者からの一冊が役立つ。

 

2.日本鍛冶紀行-鉄の匠を訪ね歩く

同じく著者はかくまつとむ氏。日本中の鍛冶屋を回った取材をした労作で、大きな写真とびっしりと細かい文字でインタビューがされている。

日本において、すでに絶滅危惧種とも言える職種だが、これほど多くの種類の鍛冶屋がいるのかと驚く。そして、その生き様を見ることになる。同じように人の手の道具を作っているのに、考え方、取り組み方に同じところもあれば、全然違う所もある。

本に出てくる鍛冶師は年老いた人が多いが、その息子さん、お孫さん、あるいは弟子入りした人も見られて、まだもうちょっとは続くのかと、明るい希望が持てたりもする。(現代日本の庖丁などは海外ですごく人気が出ているのだ)

 

職人についてや道具について知識を得たなら、次は少し金属や刃物の性質について知っておきたいかもしれません。

難しい金属工学についてあれこれと学ぶのも良いですが、なかなか最初から頭に入ってこない。

そこで次の本がとても優れています。

 

3.刃物の見方

刃物の見方

刃物の見方

  • 作者:岩崎 航介
  • 発売日: 2012/05/01
  • メディア: 単行本
 

岩崎航介先生は刃物で有名な三条市で剃刀を制作した人。日本で初めて科学的分析によって、鍛冶の技量向上や製品開発を行ったとされる人とも言われています。

第一人者だからこそ言える歯に衣着せぬ物言いで、刃物の見方について縦横無尽に解説してくれて、楽しく読み終えた頃には十分な知識が身に付いている一冊。

戦前や戦後ぐらいの時代の話が多いのですが、鉄としての知識は今も大きくは変わりません。

岩崎先生は研究量も日本中の刀鍛冶に話を聞いたり、日本に残る鍛冶技術の家伝の書物を片っ端から読んだりと、研究家としての情熱もスゴイ人です。

 

最後にはもうちょっと世界的な鉄の歴史や、製鉄の原理について。

4.人はどのように鉄を作ってきたか

東京工業大学教授、東京芸術大学教授など歴々の経歴をひっさげ、一生を製鉄に費やした人の渾身の一冊。

特筆すべきは世界中の製鉄について概説を抑えてくれている一方、日本のたたら製鉄についても驚くほど詳細に記載されていること。

永田式レンジ製鉄法なんてのも開発されていて、これは電子レンジ加熱でも製鉄の一部が再現できることで、鉄の反応を身近に実験できるという手法。(論文もけっこう出てるので調べてみると面白いと思います)

個人的に面白かったのは、日本では鉄を採るには海や(種子島)河でということが多い。中国では規模が大きく露天掘りしているところもある。

ところが、湖で鉄の塊が採れる所があるらしい。

 

 5.刃物大全

刃物大全 (ワールド・ムック 965)

刃物大全 (ワールド・ムック 965)

  • 発売日: 2012/12/18
  • メディア: ムック
 

 新本がもうなくなって、中古しか売ってないのがもったいない一冊。

いろいろな刃物について、特集されている。

一つ一つは専門書ほど詳しくはないけれど、それでも押さえておきたいポイントがいっぱいあって、鍛冶の題材、アイデアとして使えるところが多い。写真資料も豊富でとても診ているだけで楽しい一冊。

こちらは資金に余裕があればぜひ手に入れて欲しい。

もしかしたらどこかに新本も残っているのかも。

 

ノクターンノベルズのエロくてストーリー性のあるオススメ10作品!

私、肥前文俊はラノベ作家である。美少女文庫さんで本も出してる、えっちぃラノベ作家でもある。

そんな私は、ノクターンノベルズでエッチィ小説を探していた。

自分で読むためでもあるし、また書くためでもあった。

 

だが、なかなか気に入った作品を見つけられない。

ランキング上位の作品を読んでいけば、人気のある作品に出会うことはできる。

だが、それが私にとって『気にいる作品』であるという保証は限りなく低かった。

ぶっちゃけ気に入らねえ。ランキングじゃ私の本当に読みたい作品に出会えない。

 

たとえば、処女の中学生の女の子が、それまで以前に性知識など殆ど無い清純な娘であると描写されているにもかかわらず、お××こといった卑語、猥語を次々と発言させてしまう。

こういった引っ掛かりがあると、もうなんだか続きを読もうという気が起こらなくなってしまうのだ。

(*ノクターンノベルズは不思議と未成年が平気で出てくる)

エロいということは重要なのだが、そのエロさを楽しむためには、それなりに上質なストーリーが欠かせないという厄介な読者が私だった。

 

そんなわけで、私はノクターンノベルズでストーリー性のある、かつエロい作品をTwitterで募集しつつ、自身でもいろいろと探してみた。

なお、この筆者は男性であるので、女性向け作品を探している方には役に立てないかもしれない。

また、各作者の代表作をアマゾンで紹介しているけれど、普通にノクターンノベルズで読める

ただ、良質な作家の執筆を促すためにも、気に入ったら買ってあげて欲しい。

 

 

魔王の始め方

https://novel18.syosetu.com/n6426w/

人間不信の魔術師オウルが使い魔リルと共に、広大なダンジョンを作り魔王を目指す物語。地中を掘り、罠を仕掛け、魔物を配置し、村を襲い、徐々にその勢力を広げていくダークファンタジー。ハーレム、陵辱、暴力的・残虐的なシーン、催眠等の表現を含みます。

 

コミカライズやゲーム化もしている人気作であるから、すでに知っている人も多いだろうが、ストーリーとエロスの両立として、まず最初に紹介しない訳にはいかない傑作。

多数の登場キャラが出るのだが、見事に書き分けている。

未読の人であれば、とにもかくにも一度読んでみて欲しい。

 

魔術師オウルは狡知に長けたダンジョンバカである。使い魔のリルルとともに、ダンジョンを作り、育てていく。それには深い過去があり、そして目的がある。

オウルはリルルと絡み合うにも、龍脈から引き揚げた魔力を効率的に引き渡すためなど、細かな設定も生きている。

 

個人的には愛を貫こうとしたセレスというエルフキャラが好きなのだが、ヤカン氏にすると珍しいとの返答だった。

 作者名の笑うヤカンがゲーム『ウィザードリィ』から来ているため、作中もウィズ臭がたっぷりしている。(もちろん独自化もしている)

なお、私は個人的に『書籍化作家に聞いてみた』というアンケート企画を開いていて、それに答えていただいた経緯もある。 

ゲームの方は本記事と趣旨が違うので、リンク先だけ紹介しておく。

追記:ゲームの運営は終了してしまったようです。残念。

games.dmm.co.jp

 人妻人形日記

https://novel18.syosetu.com/n6437dz/

あれは今から十数年前のこと。
僕が好きになった女性は、隣に住む奥さんだった。
叶うはずのない恋。そして子供時代に芽生えた密やかな人形愛。二つの歪んだ欲望はある日、偶然たどり着いたサイトで一つに絡み合う。
"E=mC^2"
それは催眠・マインドコントロール専門の小説サイトだった。

平鳥コウ先生は、『JKハルは異世界で娼婦になった』という作品で書籍化し、話題になった作者だ。

だが、私はこの『人妻人形日記』という作品を強く推したい。

 

というのも、この作者さんはもともとペンネームをXPJboxと名乗っており、長らく催眠やMCもので活躍し続けていた作者さんでもあるからだ。

E=mc2という催眠ものの名作を多数そろえた個人サイトに、(別ペンネームで)投稿されていて、その関連性は今回始めて知ったのだが、私の記憶に強く残る作品ばかりであった。

 この作品ではノクターンノベルズではあまり見られない催眠をかけていく様子、生活や心情の変化などが丁寧に描写されていて、一種別世界を覗くことができる。

催眠アプリで何でも出来ちゃう! ってのとはちょっと違う、本格催眠作品ってところだろうか。

貞淑な人妻が催眠で少しずつ自分好みに変わっていく姿はつばを飲み込むほどにいやらしい。

 

主人公のとんでもっぷりを書く技術はドン引きしつつも、すげえと素直に尊敬してしまった。あとどちゃくそエロい。

JKハルは異世界で娼婦になった

JKハルは異世界で娼婦になった

 

 

トモハメ

https://novel18.syosetu.com/n2643dz/

愛情なんてこれっぽっちも無いけれど、友情たっぷりのお気軽友達セックス。

幼馴染みはボーイッシュな爆乳美少女(彼氏も幼馴染み)だけど異性としては意識出来ない関係性。
ひょんな事からそんな彼女にパイズリしてもらう事になり……。

 

高校生、最後の夏、男と女と男の親友が、友達ックスという絶妙なバランスで浮気セックスしてしまう。

 これは表現が難しいのだけれど、新しい世界観だった。こんなエロスがあるんだなあと思った。私は激しく興奮した。

これが大学生でも、あるいは男女関係を意識してもこの不思議な世界観は作れなかったにちがいない。

上記のように、絶妙なバランス感覚を保って、それがとてつもない淫靡さをかもしだしている。

主観的には一切恋愛的な好意はないはずなのに、行為は愛情たっぷりなのだ。

こいつらは本当に愛していないのか、それとも目を逸らしているだけなのか。あるいは……? と悶々としながら読みふけってしまう。

書籍のイラストはクオリティと作品とのマッチングが非常に高いので、できたらこれは書籍版で読んで欲しい。 現在シリーズで3巻まで出てる。

トモハメ (DIVERSE NOVEL)

トモハメ (DIVERSE NOVEL)

 

我にチートを

https://novel18.syosetu.com/n0442cd/

RPG風の世界に勇者として召喚された俺。
年間1000名を超える勇者が召喚される中、
俺に与えられた召喚ボーナスは運+1。
10年に1度のガッカリ勇者となった俺は、
与えられた人形姫をお供にマイペースな異世界生活を始める。

ノクターンノベルズ出身でありながら、全年齢対象としたHJノベルスから刊行されている、ストーリー中心の作品。

チートくさ過ぎないチート、という超絶厄介な属性を好む読者には、この作品がオススメ。この絶妙なバランス感覚を持った作品はあまりないよね。

我にチートを1 (HJ NOVELS)

我にチートを1 (HJ NOVELS)

 

信長の妹が俺の嫁 ~戦国時代で楽しく領地と妻を開発する方法~

https://novel18.syosetu.com/n4165cv/

 受験勉強よりも中二病を本格的に極める方向へ進んだ男子学生・深井長政は、試験勉強の一夜漬けで寝落ちをしてしまい、気が付くとパラレルワールドの戦国時代に大名としてトリップしてしまう。しかも結婚相手は――あの第六天魔王織田信長の妹にして、絶世の美女と謳われる市姫!? 
「決めた。こうなったら領地と市姫を徹底的に開発してやるよ!」 
 初心で可愛い嫁を夜な夜な開発しつつ、魔術有り魔物有りの厳しい時代を楽しく生き抜くために長政が立ち上がる!

私の友達の井の中の井守さんの作品。

この人はこの本でデビュー作なんだけど、連載開始2週間後には10社ぐらいからオファーが来たという逸話つきの作品。あと帯の推薦人がやばい人ばっかり。

東京大学史料編纂所などに通ったりして、一次資料もガンガン漁っちゃうガチの歴史考証をした上でファンタジーを再構築してしまう作家さんでもある。

美少女文庫さんからも多数著書があるので、本で読みたい方はそちらもご覧になるといいだろう。

 

最凶魔術師の異常なる逃亡生活

https://novel18.syosetu.com/n7803cs/

王国を追われた超凄腕魔術師のアールは、エルフやサキュバスの女の子たちを性奴隷にしながら、隣の国に隠れ潜むことになった。性奴隷になるのはハイエルフ(金髪緑目)とサキュバス(黒髪ぱっつん黒目貧乳気味)。ときどきエロ。ときどき無双。ときどきピンチ。

めっちゃエロい。主人公強い。ダブルヒロインがとても可愛らしく、エロッチい。

だいぶ以前に読んだので、記憶が曖昧だが、ストーリー性のあるエロさで良かった。

書籍化もしている上、ちゃんと完結済みでおすすめしやすい作品。

 

人食いダンジョンへようこそ!

https://novel18.syosetu.com/n5910br/

辺境の鉱山村に住む青年エリオットは、村の中で孤立していた。
彼には魔族の血が流れており、小さくても角の生えた異貌だったためだ。
唯一の肉親である母親が死んでから数年。母親の知己を名乗り尋ねてきた若い女は、エリオットのことを知るなり淫魔の本性を現し、こう囁く。
「貴方様はこれから多くの女を犯し、命を奪い、この世界を蹂躙し、支配していくのです。まず手始めに……私を支配し、蹂躙してくださいませ」

剣も使えず、魔術で敵を倒せるわけでもない。ただ、わずかに魔力を物質に付与することが出来るだけの半端な混血である青年は、情報と道具と罠だけを駆使し、敵を撃退し、女性を犯し、屈服させ、魔物に落とした上で支配することで、荒廃した世界を生き抜いていく。

これは、訪れたものを一人として帰さない恐怖の難所「人食いダンジョン」の主として君臨した一人の青年と、彼によって人生を狂わされた女たちの物語。

 完結済み。

ダークサイド、ダークファンタジーとして傑作の一つ。

苦しい環境から少しずつ成り上がっていく様が美しい。

 

 

 

ここからは、未完結だったり、非常に個人的なオススメ

好き嫌いを選ぶと思うので、注意しつつ楽しんで欲しい。

 

NO無い世界

https://novel18.syosetu.com/n2954di/

 なぁ、あんたは“思い通りにならなかったこと”ってないか?
 いや、この質問は卑怯だな。この世界に“思い通りにならなかったこと”を経験した事の無い人間なんて居やしない。
 ならあんたはこうも思ったはずだ。
「思い通りになればいいのに」
 片思いの相手に。気に喰わない上司に。偶然見つけた良い女に。あんたはそう思ったことがあるはずだよな。
 だったら俺の話を聞いてみないか?
 嫉妬しても責任は取れないが、あんたのその儘なら無い鬱屈をすこしは晴らしてやれるかもしれないぜ。
 ホントかウソか。そんなもんはあんたが勝手に決めてくれ。
 唯一つ俺があんたに約束できるのは―――俺の世界にNOは、無い。

言ったことが現実になってしまうという特殊能力持ち。

途中から出てくるハーフ美少女の章がとてもねちっこくエロかった。

残念ながら更新間隔は長く、途絶えてしまっている可能性もある。

 

記憶を持ったまま小学生に戻ってハーレムを創り上げた結果

https://novel18.syosetu.com/n2055bw/

アマナ先生、続きをはよ!

表のペンネームでは天那 光汰という名前で、小説、コミックの原作など多彩に活躍している。ノクターンノベルズの方では『緋天のアスカ』の作品が有名だが、個人的にはコチラのほうが好き。残念ながら更新停止しているが、続きを待っている。

 

緋天のアスカ ~異世界の少女に最強宝具与えた結果~ 1 (ノクスノベルス)

緋天のアスカ ~異世界の少女に最強宝具与えた結果~ 1 (ノクスノベルス)

 

 

 

 

ステータスを看破する魔眼を手に入れたので幼馴染のケツ穴を調教したらドハマりした

https://novel18.syosetu.com/n3260ci/

きー子さんといえばビギニングノベルスから出てる『幼馴染は闇堕ち聖女!』を思い浮かべる人も多いかもしれないが、個人的にはこの作品は小さくまとまっていて非常にレベルが高い。

とはいえ短編でありながら、1万ポイントを余裕で超えているので、知っている人は知ってる作品だと思う。

以前Twitterで話していたら、書きたいならぜひ採用してもらっていいですよ、との了承を頂いたのだが、おそらく書けないと思う。

誰か長編で書いて。

 

幼馴染は闇堕ち聖女! (ビギニングノベルズ)

幼馴染は闇堕ち聖女! (ビギニングノベルズ)

 

 

 

以上、じつはまだまだ紹介できていない作品も多いのだけれど、私が疲れてしまったので別の機会に紹介したいと思う。

今後も作品の充実のためにも、書籍化している方の作品で気に入ったものがあれば、ぜひお手にとって貰えれば幸いです。

 

小説家になろうの異世界転移は進化している

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異世界転位・転生はこの数年で緩やかに、しかし確実に変わってきていると私は感じている。

小説家になろうは、バカにされることが多々ある。
いわく幼稚、現実感(リアリティ)がない、文章が下手。

正直に言ってしまうと、こられのコメントは頷く点もある一方、非常に腹立たしい。

 

前回の更新で、私は文章力の高い作品も数多くあることを紹介しました。

 

 

biji.hatenablog.com

 

しかし、バカにされがちな異世界転移・転生のシステムが、実は非常に優れたシステムであることに知っている人は多くないのではないだろうか。

これだけあのテンプレート、システムが流行したのは、そうなる必然性があってのものだ。

 

全体的な印象で語る否定的な意見について、ここに否定する材料を列挙のも良いのだけど(それに十分なネタはある)、ここでは小説家になろう全体として有名になった異世界転移・転生がいかに考えられ、また進歩してきているかを紹介します。

そして、単純に表面だけを見ている方が、その「仕組み」という深い点で物語を見れるようになってもらえたら、嬉しい。

 

何気なく読んでいた(あるいはアニメなどで見た)異世界転移・転生は今、どうなっているのだろうか?

1.これまでのテンプレートの有用性と廃り

まず、大元となったテンプレートの流れを確認しておきます。

  1. 現実社会にて主人公が何らかの死を迎える
  2. 異世界に行く前に神様に出会い、死ぬ予定のない手違いであったり、あるいは神の目的の下、チート能力をもらって異世界に転移する

という流れがおおよそのお約束でした。

 神様が非常に低姿勢だったり、あるいは幼女だったりとバリエーションは豊かだが、大筋はこのようなもの、という前提条件で考えて欲しい。

 この流れを揶揄して、一部ではトラック転生もの、などと言われることもあった。

事故死の原因がトラックによるものが大半を占めたためだ。

 

 当時の流れでいうと、この異世界転移のテンプレートは非常に秀逸であったと思う。

 というのも、プロローグの目的には大きく2つある。

  • 読者を一気に引き込む衝撃的な展開や、魅力的な書き出し文
  • 作品の今後のテーマの提示

テンプレートでは、この両方が満たされている。

 

 登場してきたばかりの主人公がいきなり死ぬ、という大胆な展開によって(当時では)既存作との違いを打ち出した。

 神様のやりとりによって、主人公が優遇される理由が提示される(その理由が考えられた、共感しやすいかどうかは別にして)。

 そして、この物語は主人公が強く、異世界で活躍する作品ですよとテーマが提示される。

小説家になろうの読者の多くは、強いことに明確な統合性を求めていないので、神様が力を授ける理由も、多少問題があっても許容されてきた。

 

 しかも、異世界転移・転生は、主人公が日本人であるため、現代人が持つ化学や知識、あるいは物を平気で登場させることができる。

 そして、異世界人にとってはあたりまえの世界の仕組みを、分かりやすく、共感をもって説明することもできた。

 

 これらの要素を満たしていたからこそ、このテンプレートは爆発的に流行り、踏襲されたのだ。

 

 だけど、流行すれば目新しさはなくなり、陳腐になる。

 私もそうだった。

 

 同じような展開に読者はうんざりして、またこのパターンかよ、と溜息を吐く。
 ある読者は捻りがないとバックし、ある読者は読み飛ばしてしまうかもしれない。

 

 小説家になろうの作者は、多くの場合、同時に読者でもある。
 そこで、次の工夫が必要になってきた。

2.いきなり死なない、神様が出てこない。小説家になろう異世界転移・転生の移り変わり

 

 近頃では主人公の能力が高い理由に、神様とのやりとりを求めなくなってきている。

 元よりその傾向はあった。
 たとえば累計ランキング1位の『無職転生』は、幼少期に魔力の伸びが大きく、赤ん坊の頃から成人としての意識があり、魔力量の増える仕組みについて考察を行ったことが、莫大な魔力を得るに至った理由になっている。


 拙作の紹介で悪いが、『青雲を駆ける』はそもそも地球で一定の技量を持っていた職人が、その技術を持っていない文明社会で活躍する話だ。
 もちろんこの設定は、似たような異世界転移が受けると分かったうえで、しかし別方向からアプローチをかけた。

 

 こちらは小説家になろうではないが、『幼女戦記』では、魔力量が過剰に優れているわけではないし、そもそも存在Xとの関係は良好とは言えない。

 とはいえ、これらは考えられた別アプローチだ。

 全く同じ流れを踏襲していた作家たちは、もうちょっと手抜きをする。
 つまり、異世界転移・転生において神様とのやり取りがなくても、チート能力が得られることは共通認識になってるんだから、理由も省いて良いんじゃない? という思考だ。

 そして、こうした序盤いきなり異世界でスタートしたりする作品が非常に増えた。

 

3.ランキングシステム変更による転換期


 さて、こうして共通認識のもとに新しい異世界転移がスタートし始めたが、小説家になろうで大きな動きが起こった。
 これまでと違い、異世界転移・転生のランキングを別に分けるというものだ。
 これは日間ランキングがいわゆる異世界もので席巻されたことから、公式が新陳代謝を求めた物だと考えられる。

 日間ランキングは多くの読者が目を通し、ポイントを得て書籍化するには一番重要そうな場所だ。
 そこで作者はどう考えたか。

 

 もう異世界転移・転生じゃなくて良いんじゃ? と考えた作家もいるし、異世界から異世界に転移・転生することで、抜け道を考えた作家もいる。

 方法は様々だが、確実に異世界転移・転生物の作品数は減った。

 

4.そしてまた異世界転移・転生は舞い戻る?

 ところが、近頃再び異世界転移・転生に熱い視線が向き始めている。

 これは小説家になろうの書籍化作品と、出版市場との変化の速度差が影響しているのではないだろうか、と推察される。

 小説家になろうラノベ市場を確実に変えた。

 だが、小説家になろうの変化は、市場の変化に比べるとかなり早い。

 市場の変化が一歩進む間に、なろうの流行は4歩も5歩も進んでいる。

 そうすると、小説家になろうで受けた作品が、書籍化作業を終えて出版された時点になっても、まだ市場の流行のはるか先に行ってることになる。

 

 一度書籍化した作家にとって、書籍化することがゴールではない。

 次のステップとして、本が売れること、続けて出版できることがゴールになる。

 書籍化ブームがきて、出版経験を持つ作家が増えたため、これらの作者の一部は、すでに流行の最先端を求めるのではなく、人気を得つつ市場で売れる異世界転移・転生を書くことが多くなってくるのではないだろうか。

 

なろうの書籍化作家が選ぶ、小説家になろうのおすすめ作品15選-文章力が高そうなもの編

  

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小説家になろうの文章って、ショボくね?

ど素人の集団だから」

 

こういうコメントを見ると、よく知りもせずに決めつけないで!

って思ってしまいます。

 

私自身が、小説家になろうで書籍化し、ライトノベル作家としてプロデビューの 機会を得ただけに、特にそう思うのかもしれません。

 

小説家になろうは玉石混交です。
プロ(といってもそれこそピンきりだが)を上回るような作者もいれば、人気はあっても文章力という点ではあまり評価されない作家もいます。

 

これはスマホ向けに、凝った表現よりも一目で理解できる、小中学生でも分かりやすい文章を心がけている作家もいて、これもまた一つの「文章力」なのだけれど、こちらが「文章力が高い」と評価されるケースは比較的少ないのが現状です。

分かりやすい文章の方が読者層を獲得しやすく、ポイントが増え、書籍化しやすいという考えですね。

また、文章力よりもアイデアや構成の技術が高く、それによって人気を得ている方も多くいます。

 

今回は、世間一般に言われるところの文章の上手な作品を、私の個人的主観で選んでみました。

完結済みと、連載中と分けています。


どれも自信をもって薦められる作品です。

 

 

完結済みの作品


『サムヒア・ノーヒア』(ちょろんぞ/小野崎まち)

https://ncode.syosetu.com/n8676bo/

ながらく「小説家になろうで文章力が高い作品は?」と質問すれば、必ず候補の一つとして挙がった作品です。
昨年『サムウェア・ノットヒア ~ここではない何処かへ~』として書籍化されたらしいですね。

素晴らしい作品は、いつの日にか日の目を見るという証でしょうか。
本当におめでとうございます。

一人の天才画家と、天才ではない平凡な画家の男女。
同じ世界に属していて、才能がある人間の隣に、平凡な人間がいることは、苦しい。

一人の創作家として、とても共感できました。

才悩人応援歌をセピア色にして、小説にした感じ。
注意:ハッピーエンドとは言えない。

 

サムウェア・ノットヒア ~ここではない何処かへ~ (マイナビ出版ファン文庫)

サムウェア・ノットヒア ~ここではない何処かへ~ (マイナビ出版ファン文庫)

 

 

 

『生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい』(のの原兎太)

https://ncode.syosetu.com/n4764du/

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最近コミカライズがされたり、1巻が4版目とかで大反響ですね。
アニメ『オーバーロード』の間などにちらっとCMが流れたりしてたそうで、出版社の売ってやるぜ!というやる気がうかがえます。

 

丁度本編が完結されたばかりの出来たてホヤホヤなので、ぜひ読んで欲しいものです。
独特な文体なのだけれど、それがとても良いアクセントになっている作品です。

ちょっとこれは真似できない文章だな、と思うタイプの文体ですが、文章自体がとても面白いのです。

 

生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい 01

生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい 01

 

 

『きつねよめ』(二宮酒匂)


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遅筆だけど、出す作品出す作品がとにかく面白い作家さん!

長編小説は基本的にすべて本になったんじゃないでしょうか。
『きつねよめ』は、とことん胸が切なくなる話です。
和風ファンタジーとしてとても秀逸な世界観と、登場人物がとにかく人間臭く、レベルが高いです。

結末については評価が分かれますが、胸を刺す作品として、挙げずにはいられませんでした。

他の著作

注意:ハッピーエンドとは言えない。

 あと、ジンニスタンまだー?

 

幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。 (カドカワBOOKS)

幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。 (カドカワBOOKS)

 

 

『小説投稿サイトでランキング一位を取らないと出られない部屋』(理不尽な孫の手
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小説家になろうの累計ランキング一位の『無職転生』の作者。
キスをしないと出られない部屋、という話があったけれど似たような題材だけれど、表現はまったく別物。

同じ素材でも、調理方法によって料理の味が変わるというのがよく分かります。
当時、寝ないといけない、明日に差し支える、ああでも続きが……! と思いつつ、貫徹して読んでしましました。

 

『スケルトンの奴隷商』(白黒いり)
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名中編。
長すぎず、シンプルにまとまっています。

ケルトンを使った傭兵業務から、内政まで幅広い活躍のさせかたや、スケルトンの使役方法、人間関係が実に上手だった。

最後の戦いが手に汗を握る展開で、非常に胸熱です。ババアが厄介過ぎる。

『勇者様のお師匠様』(ピチ&メル/三丘 洋)


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魔力が使えないと活躍できない世界観でありながら、魔力適正のほとんどない主人公が剣士として、勇者のお師匠をする。

不利な状態を決してあきらめることなく突き進む姿に応援したくなる。
また勇者(女の子)とのラブロマンスも必読。

文体から、最初私が知っている作家さんの作品かと思ったのだけれど、そんなことはなかった。

 

勇者様のお師匠様 (1)

勇者様のお師匠様 (1)

 

 


『辺境の老騎士』(支援BIS)


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この作品も、長らく名文として候補に挙がる作品。
とっても作中の食事が美味しそう。

最初は旅情記としてはじまるのだけれど、進行とともにどんどん広い世界に話が膨らみ、世界の命運をかけた戦いに発展していく。
どことなく海外ファンタジーのような、あるいは童話物語のような、絵本のような。
ゲームでいえば『Ruina~廃都の物語~』を彷彿とさせる。

イラストレーターの笹井一個氏がお亡くなりになられたそうです。

ご冥福をお祈りします。

 

 

辺境の老騎士 1

辺境の老騎士 1

 

 

巫女と狐はほどけない(ちょきんぎょ。)


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短編として必要な要素が全部揃った作品。

某企画として、文字数制限ぴったりに整えてきたところといい、非常に上手い、と言えました。

 別作転生吸血鬼さんはお昼寝がしたいはまもなく20万部突破のベストセラーとなった。

 

転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい 1 (アース・スターノベル)

転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい 1 (アース・スターノベル)

 

 

連載中の作品

 『カボチャ頭のランタン』(mm)


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どことなくエッチで、とってもスリルあふれるバトルがあり、戦闘&銭湯描写が魅力的。

どうしてこんなにお風呂にこだわるのだろうか? いったい何のこだわりなのか。不思議だけど好き。主人公が女の子みたいな外見でありながら、その中身はしっかりと男の子してるのも良いです。

なかでも第3章かな? 竜退治の章は最初から最後までが連綿と繋がりながら、非常に完成度が高かった。
本の方は長らく続刊が出ていないが、出たら買いたい。ずっと待ってる。

 

『神統記(テオゴニア)』(るうるう/谷舞司)


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生き残り錬金術師が完結したいま、最も更新を楽しみにしている作品。読むと良いよ。
もともとは『陶都物語』を個人サイトで続けていて、人気を博していた作家さん。

3月31日に出版されました。おめでとうございます。

2巻も発売されました。すぐに買いました。 

 

神統記(テオゴニア) (PASH!ブックス)

神統記(テオゴニア) (PASH!ブックス)

 

 

ウロボロス・レコード ~円環のオーブニル~』(山下湊)


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アンチヒーローものなのに、ふしぎとヒーロー文庫から出版された名作。
永遠の命を得るためならば、どのような手段もいとわない、という強烈なスタンスがあるため、非常に癖の強い作品だが、恐ろしいほどに惹きつける文章があり、とくに法廷の場面は必読の価値あり。

 

残念ながら連載が途絶えていますが、それでも読んで欲しいと紹介したくなる力がある。

最果てのパラディン』(柳野かなた
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小説家になろうこのレベルの純ファンタジーが読めるのか!

指輪物語などの、純古典的ファンタジーの匂いが色濃く立ち昇る作品。
以前不思議な縁で将棋を指したが、めちゃくちゃ強かった。

 

爽やかな風が吹き抜ける。

 朝靄に僅かに霞む、夜明けの丘の麓。広大な湖に沿って石造りの都市が広がっていた。
 古代か中世か、といった風だ。高い塔や、美しいアーチの連なる水道橋らしきものも見える。
 ……その全ては古び、廃墟となっていた。
 建物の屋根はところどころ崩れているし、壁の漆喰は無残に剥がれ落ちている。
 街路の石畳の隙間からは草が伸び、緑の蔓や苔があちらこちらで建物に絡みつき、張り付いている。
 かつて人の営みがあったであろう街並みが、まどろむように緑とともに朽ちてゆく。
 そのすべてが、昇る朝日にやさしく照らされていた。

 

作品を読めばわかるけれど、ここの文章がめちゃくちゃ場面を思い浮かばせ、感動させた。

 

 

異世界居酒屋「のぶ」』(蝉川夏哉/逢坂十七年蝉)


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アニメ化、およびコミカライズ作品。最近二年半ぶりに新刊が出版された。
初めて読んだ時はまだ最初の3話ぐらいだったが、これは一味違うな、と唸った記憶があった。

その感想に違わず、アニメ化までしてるのだからすごい。

お腹がすくので、深夜には読まないほうが良いかも。

はじめてラノベ作家として活動して、いろいろとお世話になりました。

 

『ラピスの心臓』(おぽっさむ)


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更新頻度はゆっくりだけど、非常に純度の高いファンタジー
以前から文章力では評価されていたから、今更の紹介は蛇足かもしれない。

 

蜘蛛ですが、なにか?』(馬場翁


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文章力が高い、と言っていいのか迷ったのだけれど、やっぱりめちゃくちゃ面白い。
一人称でこの文章はやっぱり尋常じゃない、と思い紹介。
当時ランキングを席巻していたのは、いい思い出。

 

 

 

 

その他、『死神を食べた少女』も良かった気がする。

こうしてみると書籍化作品が多くて申し訳ないが、まだ読んだことのない人には参考になればと思います。
他にも、文章力が高くて面白い作品は沢山あると思う。
もし良ければ、私に紹介いただけたら幸い。

 

 

ラノベ作家になって、「富樫仕事しろ!」と言えなくなった話

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 冨樫義博HUNTER×HUNTER」が、4月9日発売の週刊少年ジャンプ19号(集英社)より休載する。4月2日に発売された18号で告知されたらしい。
 これでいったい何度目の休載だろうか。
休載の理由は体調不良だったり、作者都合だったりと色々だが、かつてネット上に出回ったモンハンで遊んでいる、などという噂を聞くと、過去の私は「富樫仕事しろ!」と言っていたように思う。

あなたにもそのような経験はないだろうか?

 ハンターハンターは名作だ。

だからこそ当時、一人の『消費者』として、彼の作品を愛し、続きを焦がれた。
それゆえに、『作者の怠慢』に強い怒りを感じていたものだった。

 今でも、休まずにもっとどんどん描いて欲しい! という想いはある。
だけど、一消費者から、提供する側になったことで、とても「富樫仕事しろ!」とは言えなくなってしまった。

 

 私はヒーロー文庫から『青雲を駆ける』というライトノベルを出版している兼業作家だ。
出版が決まる以前も、ずっと趣味で小説を書き続けていた。
出版以前だけでもおよそ10年になるだろうか。その間、私の筆は一度も止まることがなかった。
書きたいと思ったことを書く毎日は、そこに技量が伴っていたかは別問題として、非常に楽しかった。

 

 そんな生活が、ある日変わってしまった。
書きたいという想いはそのままに、いや、むしろより強くなっているのに、書けなくなってしまったのだ。
いわゆるスランプというものだ……。

この僅か4文字の中には、恐ろしいまでの濃密な、リアルな苦しさがある。

 

 執筆用のソフトであるテキストエディタを起動させながら、少しも文章が進まない。
思ったような展開にならず、書いては消しての毎日で、一日が経って結局100字も進んでいないという経験も珍しくなかった。
 時には二時間ほどパソコンの前に座ったまま、一文字も書けないで過ごした日もあった。

 仕事が思うように進まない経験は誰にでもあると思う。

 では、これが二年も毎日続いたら?

 

 どうして書けないんだろうか。
なぜ、思ったように書けないのか。
自分は一体どうしてしまったんだろう?
自分の状態が情けなく、同時に怖かった。自分はもう、作家として壊れてしまったのかもしれないと思った。それが何よりも悲しかった。

 パソコンの電源を落とすと、げっそりとやつれた自分の顔が、真っ黒なブラウザに移った時、もうダメかもしれないな、と思った。

 

 困ったことは書けないことだけではない。
 そうして悩みながらも、書くこと以外の構想を練ったり、キャラクターを考えたりといった作業は頭の中でずっと、ずうっと続いているのだ。朝起きたときから、寝る直前まで。新しいアイデアが思い浮かび、これは良い、これは良くないと自分で批評しながら、練っていく。
 書きたい事がありながらも、手が動かない。

 

 自分はこんなもんじゃない。
もっとできるはずなんだ。
そんな声がどこからともなく聞こえてくるようだった。

 

 日々は驚くほど速く流れてしまう。
それまで兼業であるからと、半年に一冊のペースで出版できていた本が、一年が経っても、半分すら進んでいなかった。


そのとき、私の普段の言動は、できるだけ変わらないようにしていた。
Twitterでは、スマホゲームのグランブルファンタジーに傾倒しているような発言もしていた。
「続きはまだ?」「進捗どうですか?」
そんな声をたくさん聞いたものだったが、私はつとめて遊びほうけているように振る舞った。
たぶん、書けなくなったことを認めたくなかったのだ。

 

そんな時に、冨樫先生の休載のニュースを目にした。

あれだけ描けば売れる作家だ。

受けるプレッシャーも並大抵のものではないだろう。

気づけば私は「富樫仕事しろ!」とは言えなくなっていた。

 

書けなくなる原因とは何だろうか?

ある日、私は再び書けるようになった。

書くことが楽しかった。久々に感じる楽しさだった。

それと同時に、もしまた書けなくなったらどうしよう、という恐れが常にある。

それは胃の腑のあたりにいつもどっしりと私を脅かしている。

 だからこそ、書ける時にいっぱい書き尽くしたいと思っている。

 

 

幸いなことに、来月末か、そのもう少し先に、私の最新刊が出るはずだ。

お仕事の依頼をいただいたりもできるようになってきた。

もう一度出版の世界で戦っていきたい。

 

 

青雲を駆ける (ヒーロー文庫)

青雲を駆ける (ヒーロー文庫)

 

 

 

HUNTER×HUNTER 35 (ジャンプコミックス)

HUNTER×HUNTER 35 (ジャンプコミックス)

 

 

書籍化作家が小説家になろうの今後のために願うこと

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 私は小説家になろうに投稿した作品が、ある出版社の目に留まって、書籍化できたいわゆる書籍化作家というやつである。
 それまでまったくのアマチュアであった私が、こうして出版できたのは、ひとえにこの巨大投稿サイトがあってのものだ。
 私は「小説家になろう」におかげで、「小説家になれた」一人である。

 

 縁があり、恩があるサイトに対して、こうして要望を書くことは、どうやら一部の人にとってははなはだ不愉快なようだ。

 何様だ、身を弁えろ、というような指摘をいただくこともあるが、小説家になろうは成長期から成熟期へと段階が移行したと思えるだけに、あえて次のステップに進んでもらい、より大きな活躍を期待して、ここに記します。

 

ランキングの問題について 新設、あるいは改善

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 小説家になろうでは、総合、ジャンル別、異世界転移・転生の3つのランキングがある。
 さらに、その中でも日間、週間、月間、四半期、累計と期間ごとに分かれている。
 このランキング制度は非常によく考えられていて、同じ作品が常に居続けることが難しくなっている

 だから、私はこのランキングについては大幅な変更はいらないというスタンスだ。


 ただ、一度書籍化した作家がランキング上位に昇ることの多さなどを問題視する人もいる。
 新陳代謝が損なわれる、という発言も見られる。
 しかし、ランキング上位に昇る要素がたまたまの運ではなく実力であった場合、これは不可避の現象でもある。
 面白いコンテンツが評価され、上位を占めるのは、一般利用者にとっては望ましいことだ。

 

 とはいえ、その分、新規にランキングに掲載され、そこから大人気を博した「かもしれない」作品の機会を奪ってしまっているのも確かだろう。

 そこで、私としては、ランキングに新規に載った作品に関しては、分かりやすくNewなどのマークをつけることを求めたい。
 累計ランキングに載るような人気作の場合、日間ランキングに常に居続ける(何度も復活する)ことも珍しくないためだ。

 新しい作品を求める読者にとっては、分かりやすい指標になるかと思う。

 

 あるいは、「新着のみを掲載するランキング」を新設してはいかがだろうか?

 小説家になろうの作品を分析するサイトでは、日間最高何位というデータが取得されているから、集計時に過去にランキング掲載した経歴があるかどうかを調べるのは可能だと思う。

 

アカウント停止措置について

複数アカウント問題

 近頃、アカウント停止措置が話題になっている。
 複数アカウントによるポイント操作疑惑から、ディープキスなどの描写による訂正警告、アカウント削除についての流れだ。

 ところで、この複数アカウントに関しては、警告なしの一回削除の措置を取られているが、作者にとっても恐ろしいだけでなく、運営側にとって非常に危険だ。

 

 私は複数アカウントをしたこともないし、今後する事もない。
 しかし、もしやってもいないのに問答無用にアカウントが削除されたら、裁判沙汰にすると思う。

 泣き寝入りするには、出版社に迷惑がかかりすぎる。
 身の潔白を証明するためには、そこまでせざるを得ないだろう。

 

 そして、そこで本当にやっていないことが判明したら?

 信用問題、賠償請求など、計り知れない損失を被ることになる。 

 アカウントの一時凍結からの、利用者による弁明の機会を設けることは、大規模サイトではよく見られる措置ではないだろうか。
 たとえば問題になっているTwitterの凍結でさえ、いきなり削除されるわけではない。

同一IPについて

 ネット喫茶やマンションによる同一IP問題があり、またIPの情報公開を行わなかったことが、疑惑を深めてしまっている。

 

 

 

 同一IPが問題であるならば、当事者にIPを公開することは無問題である。

 プライバシー保護の観点も大事だが、当事者にすら開示できないプライバシーとはなんぞや。

 

 別人がIPを取得していたなら、アカウント削除の根拠自体はなくなってしまうのだが、いかがだろうか。

 

描写による不明瞭な警告について

 描写による警告は、非常に問題が多いように思える点だ。

 警告、修正個所の指摘がない。

あるのは、

問題に接触しているため修正して欲しい

危なそうなところは訂正しました

まだ残っているから修正して欲しい

というやりとりだ。

 これではなにが問題かまるで分からない。

 

 もちろん、ある程度のガイドラインは裁定されているのだけれど、問題箇所の指摘は行われても良いんじゃないだろうかと思う。

 というのも、長編になればなるほど、問題箇所を把握することは難しくなるからだ。

 なろうでは100話を超える作品も珍しくないので、適切に把握できるかというと難しいと思われる。

参考→ガイドライン || R15に関して

 

 とはいえ、小説家になろうは広告によってほとんどの収益を得ているが、広告媒体であるGoogleAdSenseは、担当者によって基準が変わり、明確な基準を打ち出していないので、難しいのは分かるので、あまり強くは言えない。

 小説家になろうにしても、Google AdSenseの管理人から指摘され、広告が停止されたくないために修正を求めているというケースもあるだろうから。


Googleアナリティクスの導入について

 毎日更新する作家にとっては、即日、即時の反応はとても気になる。

 小説家になろうの解析は2日遅れで、なかなか反応が分かりづらい上、分かる解析もかなり限られてしまっている。

 

 Google Analyticsの導入は、小説を改善するのに役立つ。

 離脱率などから、第何話に問題があったのかなどが丸裸になるからだ。


 公式が言うJavascriptの導入によって、サイトに致命的な被害を避けたいのであれば、外部リンクなどと同様に、Googleアナリティクス専用の記入欄を設けるなどしてみてはどうだろうか?

 少なくともカクヨムでは導入されている。
 これによって、現アクセス解析に対しての負担も軽減されると思うのだが。

 

 ちなみに、この提案に関しては一度、公式に問い合わせフォームから要望として送ったことがある。(そのときには合わせてヒートマップの導入も送った)今後採用されてほしいものだ。


企画について

 これは私自身が書き出し祭りという企画をやったために思うのだが、なろうさんは小規模、あるいは大規模企画が非常にやりづらい。
 企画主のアカウントを使うため、共同管理も難しい。

 企画用のアカウントの創設を認めてくれたり(複数アカウント問題が絡むためできない)あるいは企画ページの導入などをして欲しい。

 

 以上が小説家になろうに対しての、一人の作家からの今後の要望です。

 書き手が書きやすい環境を徹底的に整えることで、小説家になろうは良いコンテンツを集めることが出来、結果として読者が集まるという好循環が生まれて発展してきただけに、改善していただきたいと強く願っている。

 

 もちろん、私が出した案を採用する必要はどこにもないのだけれど、このように問題があるように感じている人間がいることが、届けばよいと思う。

 

 少しでも面白いと思った方がいたら、コメントなりブクマなりTweetなりしていただけたら、とても嬉しいです。

 

 

ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略

ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略

 

 

マルドゥック・スクランブルの面白さについて一人のラノベ作家が思うこと

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久々に読後に痺れるような余韻の残る作品を読んだ。
フワフワとした酩酊感に襲われる、どことなく非現実的で心地よい気怠さ。
ほうっと溜息をつき、物語が終わってしまったことを残念に思う。

 

マルドゥック・スクランブル』との出会いは、もう10年ほど昔になるだろうか。
大阪は天王寺の書店で、評判の良さから目についたときに購入した。
当時たしか新装版が出始めた頃で、新装版で買い揃えるべきかどうか、少し悩んだ記憶がある。
結局、一番古い版で(初版と言う意味ではない)買い、そのまま本棚の数ある積読本の一つになってしまった。
三冊の本なのに、2巻と3巻が売り切れていて店頭になかったためだ。

そうして非常に長い年月を、忘れられ、あるいは積読の罪深さゆえに目を逸らされ続け本棚に並びながらも読まれることなくひっそりと佇んでいたこの作品は、2018年になって、再び私の手元へと戻ってきた。

 

きっかけは友人である井の中の井守先生の推薦だった。
たしか、三人以上の台詞回しで手本となるべき秀逸な作品はないか、という発言に対してだった。
その頃、私の自分の作品への課題として、「複数人数での台詞におけるスムースな理解の提供」があった。

 

書き手になると分かるが、複数人数が違和感なく台詞を喋らせることは、存外難しい。
映像作品、あるいはゲームでは誰が言っているのかを、台詞の違いで負担なく理解させるのは大変な技量が求められる。
また、何々が言った、口を開いたなどを連続して使いたくないと考えている作家は多い。
だから、多くの作家は複数人がいても、結局会話をしているのは二人だけ、というケースが多くみられる。
私もこの手法をよく使うのだが、やはり複数人で話せた方が場面としては適切だ。

この課題を上手に解決していた作品に、あの『涼宮ハルヒ』シリーズを挙げられた作家も過去にいたので、参考にされるとよいかもしれない。


とかく、私は推薦に従って、また興味を掻き立てられ、マルドゥック・スクランブルと再び向き合うことになったのだった。

この作品は、熱量が恐ろしい
私に技術的に書けるかどうか、と自問自答したところ、書けるだろう、という判断が下った。


だが、最初の書き出しから文末に至る徹底したこだわり、それこそ一文一文への熱量を、私がそこまで注げるか、注いだことがあるかと問われれば、答えは否だった。
この作品はあとがきにも書かれているが、作者自身の偏執的なまでの、あるいは狂気に囚われたかのような地の文章へのこだわりが読み取れる。

 

本来、小説の面白さは台詞まわし、あるいは心情描写にあると言われている。
地の分は静に対して、台詞などは動の位置づけにあるためだ。
物語が動くには、台詞が中心になる。

ところが、今作においてはどう考えても、台詞の力よりも地の文の積み重ねの影響が大きかった。

思うに、台詞の力は即効性は高いが、すぐに醒めるのではないだろうか。
熱いお風呂に浸かってサッとあがると、意外とすぐに涼しくなるように。

地の文は、少しずつの積み重ねだ。一文一文では大した影響を受けない。
でもそれが積み重なると、気付いたら体の芯まで熱が篭もり、どうしようもなく熱くなる。
半身浴などで芯まで温もると、いつまでも湯冷めしないように。

 

マルドゥック・スクランブルの面白さについては、多くの読者がすでに書評を書かれているだろうから、多くの紙数は割かない。
だが、主人公バロットのカジノシーンは圧巻の一言だ。

これほど引き込まれたのはジェフリー ディーヴァーの『ボーン・コレクター』以来かもしれない。
思えばこの作品も徹底的に科学捜査についての透徹としたこだわりが見えたものだ。

 

こだわりは美しい。

生半可な執着は見苦しいが、徹頭徹尾こだわった作品は、心を打つ。

 

冲方先生は、たしか以前にライトノベル創作についての本も出されていて、読んだ覚えがある。
骨書きや筋書きなど、5つぐらいの段階を踏んで書かれているのだったか。
いま読み返してみても、新しい発見がありそうで楽しみである。

 

 

マルドゥック・スクランブル〈改訂新版〉

マルドゥック・スクランブル〈改訂新版〉

 

 

 

新装版 冲方丁のライトノベルの書き方講座 (このライトノベルがすごい!文庫)

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